タカハシの ε-130 反射望遠鏡

山場だった卒研発表が終わり、今は残りの卒論を執筆しています。2月中には終わらせたい。。。とはいえ、研究室がしばらく忙しそうなので、遠征はおろか、友人との旅行すら行けるかどうか怪しい。。。

 

そんなこんなで、ぼちぼち部活からも引退する時期が近づいてきているので、3年近く愛用させていただいたε-130に関して、実際に触れてみて感じたこと、経験したことなどを備忘録としてまとめてみました。

中古で安く手に入りやすい鏡筒なので、検討している方への参考になれば幸いです。

[免責] 途中、鏡筒の分解をしている箇所がありますが、あくまで自己責任でお願いします。不安であればメーカーや代理店に問い合わせるのが一番安心です。

 

ε-130 簡単な紹介

ε-130は高橋製作所が1984年9月に製造を開始した天体写真用の鏡筒です。
現行のイプシロンとは少し違う、若干渋い黄色のボディがまた良いです。

ε-130 鏡筒

鏡筒本体は5.5kg、全長は50cmにも満たないくらいの小ぶりなボディですが、至る所にアルマイト処理された鋳物が使用されており、タカハシらしい重厚な造りの鏡筒です。接眼部分は回転装置と一体になっていますが、重いカメラでもしっかり取り付けられます。

ピントが合う位置でもドローチューブが鏡筒内に出っぱることはなく、星像への影響が出ないよう工夫が施されているようです。

90S赤道儀とε-130 鏡筒

ε-130に組み込まれているパーツの多くが1980年代のタカハシに多いブルーグレー(?)塗装なので、当時発売されていたEM-1 , EM-100, 90S赤道儀などと組み合わせると、色に統一感が出て良い具合になります。

鏡筒のスペック

焦点距離:455 mm

口径:130 mm

斜鏡短径:63 mm

F値:3.5

実効F値:4.0

重量:5.5 kg

鏡筒径:166 mm (MT-130や現行のε-130Dと同じ)

こちらより引用しています。タカハシのカタログページの一枚が開きます。

ε-130D (430mm / F 3.3)と比較すると、焦点距離が若干長く、その分F値も大きいです。

 

星像評価

ε-130+デジタル補正レンズの組み合わせで撮影した星像を紹介します。既に販売は終了していますが、旧型イプシロン用のデジタル補正レンズに関してはこちらをご覧ください。

自分がこの鏡筒で撮影してきた中で、光軸が最も合った状態と思われるε-130の星像が次の写真です。

ε-130 + デジタル補正レンズ + D810A

4角の等倍入り抜きも載せておきます。

フルサイズ周辺まで色収差の少ない、とてもシャープな像を結んでくれています。約3600万画素のD810Aでも、微光星が最小で2×2 pixelに収まっています。

ただ、よくご覧いただくとわかると思いますが、4隅で星像の形状が大きく異なっていることがわかると思います。微妙な調整誤差で、星像が上下左右で不均一になってしまうのは、短焦点反射望遠鏡の難しいところかもしれません。これが光軸の調整によるものなのか、スケアリングによるものなのかどうかなどに関しては、いまだに解明できていません。レンズも分解清掃したりしていたので、その影響かもしれません ^^;;

 

フラット画像評価

イプシロンはフラットが合いやすいという意見がありますが、自分は結構フラットで苦戦していました。経験上、LEDのトレース台やPCの画面よりもスカイフラットの方が合いやすいように感じています。

運搬中に主鏡がずれることが多い、というか必ずと言っていいほど光軸はずれるので、反射望遠鏡のフラットは現地で、撮影直後 (直前) に撮るが吉です。

 

それではフラット画像です。フルサイズ機 (D810A) で撮影したものがこちら。

ε-130 + デジタル補正レンズ + D810Aで撮影したフラット画像

ミラーボックスによるケラレが大きいですが、これは一眼レフの宿命なので仕方ないです。周辺は屈折鏡筒と比べてかなり複雑な減光をするので、厳密なフラット補正が必要になります。

 

 

作例

ε-130 + デジタル補正レンズ + D810A
合計露光時間:2h

ε-130 + デジタル補正レンズ + D810A
合計露光時間:4h

ε-130 + デジタル補正レンズ + EOS M5 (HKIR)
上下2枚モザイク合成 / 総露光時間: 3 hour

 

所々に感じる設計の古さ

しっかり調整すると素晴らしい星像を見せてくれるこの鏡筒。

そうはいっても1980年代の鏡筒なので、ところどころに設計の古さがあります。。。

 

副鏡を支える丸棒スパイダー

丸棒スパイダー
  • 現行品は丈夫な羽根式を採用しているのに対して、旧型では丸棒式です。丸棒式のスパイダーは撓みやすいと聞いたことがありますが、個人的に撓みはほとんど気になったことはありません。
  • 鏡筒部分から突出しているスパイダー位置調整用のネジ。調整の際に誤って回してしまうと、その後の光軸再調整が迷宮入りする場合があります。
  • ε-130はスパイダー交換ができないようです。ε-160やMT-160は一時期メーカーで交換してくれたそうですが。。。

 

斜鏡

斜鏡の分解写真

写真中央右側に見えるネジの頭

斜鏡は艶消し塗装された筒 (分解写真: 右) に格納されており、上からアルミの型 (分解写真: 左)で押しつけるように固定されています。このアルミの型を固定しているのが写真の黒いネジ。この出っ張りが星像に影響を与えそうで、若干不安材料。

現行のε-130Dではこのネジは撤廃されています。

斜鏡を支える2本の爪

斜鏡先端には鏡が落ちないように爪の支えがあります。これは斜鏡の構造上、なくてはならないものになっています。しかしながら、あらぬ方向にヒゲを生やした星像となってしまいそうなのがすこし残念。この抑えヅメも現行機種では撤廃されています。

 

主鏡の光軸調整ネジ

主鏡の光軸調整ネジ
  • ご覧の通り、ネジが鏡筒面から飛び出してしまっているため、ケースへの収納・運搬の際にうっかり触れてしまって光軸が狂うことがあります。また、この面を下にして鏡筒を立てるのも少し躊躇われます。
  • ただ、このネジに関しては良い点もあります。ある程度までであれば「手回しで調整ができる」点です。特に光軸調整に慣れないうちは、ネジを回しまくっているうちにだんだん感覚が掴めてきて、光軸への理解が深まります。
  • ネジとは関係ないですが、裏面の黒い部分はすぐ裏が主鏡になっており、触ると主鏡位置がずれます。鏡筒を軽くゆすったり、叩いたりするだけでも光軸がずれることがあり、結構難儀しました。

 

おまけ

かつて自分が直面した困難を記しておきます。

光軸ズレ時の画像

光軸が合っていない状態での星像をお見せします。遠征先で最もテンション下がる「光軸ズレ」です。

バラ星雲
ε-130 + デジタル補正レンズ + EOS Kiss X2 (誠報社改造)

続いて切り抜き画像。

星の形状が栗型🌰になっています。星像もなんかぼやっとした感じ。ピントもずれてたのかもしれません。

なお、左と下の辺が黒くなっているのはコンポジットによるズレの影響です。

 

主鏡圧迫時の画像

主鏡圧迫は、主鏡を留める3点のネジを強く締めすぎた時に起こる現象で、星像が "おにぎり" になります。

ある方が言っておられました。主鏡はこんにゃく

主鏡セルを振ってカタカタ音が鳴らない程度に、優しくネジ締めをしましょう。

ちなみに、主鏡を留める3点のネジとは、これのことです(赤い矢印)。主鏡セル裏側の光軸調整用ネジとは異なります。

主鏡セルと主鏡固定ネジ (赤矢印)

主鏡圧迫時に撮影した、M81の切り抜きです。見事な三角形となった星々。

主鏡圧迫による恒星像
ゴースト

写真は8mほど離したスマホライトをD810Aを使って撮影したものです。また、8mでは距離が短すぎて像を結ばなかったので、カメラと鏡筒の間に接写リングを挟んで撮影しました。盛大にゴーストが出ています。。

部で所有しているこの個体だけの現象なのか、そうではないのか定かではありませんが、内面で何か反射しているのでしょう。

個人的には、青い大きなゴーストが鏡筒内面反射、光源の左側にある楕円状のゴーストがTリングの内面反射だと思っています。

今のままの状態では、馬頭星雲やクラゲ星雲、サドル付近などの明るい星を含む対象は撮影が厳しいと思います。

 

スパイダーの調整

前述の通り、スパイダーの固定ネジは鏡筒から出っぱってしまっているので、初心者の方は光軸調整に必要だと勘違いしてここを触ってしまうことがあるようです ( <= 過去の自分もそのひとり)。

それ以外の場合でも、何かの拍子にずれてしまった、光条がどうしても合わないということがあるかもしれません。あまり参考にしてほしくはありませんが、一応情報共有ということで。。。

  1. 主鏡・斜鏡の順で取り外します。その後、シャープペンシルでスパイダーの延長線を書きます。この交点がスパイダー金具の中心になります。( 斜鏡のオフセットがよくわかりますね。)
  2. 鏡筒側面からスパイダー金具中心までの距離を正確に測ります。自分は100均の定規で0.1mmの精度で測りました。
  3. 長さに合わせて、側面のネジをじわじわと調整します。全てのスパイダーの長さが均等になったら調整終了です。

( 触るな!と書いてありますが、書いたのは自分なので問題なし笑 )

以上、自分の場合はこの方法でかなり改善されました。どうしてもの場合は試す価値があるかもしれません。タカハシのMT系、旧型のイプシロン系ではこの方法が使えると思います。SW社のBKP鏡筒とかだとスパイダーが薄いのでちょっと微妙かな。。。R200SSはスパイダーの調整機構がないので、そもそも不可な気がします。

 

薄膜化したメッキ

一時期、多湿な環境に晒された歴史があるらしく、主鏡を裏面から照らすとカビ跡がびっしり。カビと一緒に、薄くメッキを剥がしてしまったようです。傷もいっぱい。

今のところ写りに影響はないですが、予算が余った時にでも再メッキに出して欲しいですね。。。

主鏡メッキの薄膜化。裏からのライトが透けている。

パッと見は全く問題ない主鏡。

 

最後に

おまけの項が長くなってしまいました。。。

ε-130 は発売から40年以上経っており、古い鏡筒という印象を受けている方も多いと思いますが、きちんと調整をすればとても良い性能を発揮してくれます。また、現行機種は納期がとても長い状況が続いていますので、運良く中古品と出会えた場合は購入を検討するのもアリ?と思っています。皆さんの機材選び、機材弄りの参考になれば幸いです。